精神の生態学 G.ベイトソン:著 佐藤良明:訳 <引用文2>

文化接触と分裂生成

■問題点の摘出
個人の性的欲求の昇華や充足ということにも、行動規範の強化ということにも、あるいは成員への食糧の供給ということにも、文化のほとんど全体がまるごと関わっているのだ。
p120-121

注b:さまざまな制度が相互に大きく重なり合っている可能性に常に目を向けなくてはならない。

十分に統合された個体にあっては、その行動1コマ1コマが、それらの(自己防衛的行動、攻撃的行動、性的行動、取得的行動等)抽象カテゴリーのすべてに関与していると考えた方が、心理学の発展のためには好ましいと憶測するしだいである。

どんな文化的特性であっても、それが提供され、受容され、拒絶される現象には、経済的かつ構造的かつ性的かつ宗教的な原因が一度にはたらいていると考えるべきである。
p121

(それらのカテゴリーは)われわれ研究者が文化を観察するさまざまな覗き窓につけた名前なのだ。
p121


■均一な文化を覗くための諸観点

b --- 統一体の情動的側面
 文化に備わった情動のメカニズムを見ていく際にも、やはりパーソナリティの情動的標準化というところへ問題を転換して考えることができるようだ。人間は自分の行動が感情的に矛盾なく進行するよう、文化的調整を受けるだろうから。
p123

e --- 社会学的側面
個人間の行動が、当事者を含む大きな集団生活の統合を促進したり阻害したりする側面も見逃してはならない。飲み物をふるまう行動は、集団全体の連帯を強化するファクターとしても見られるわけだ。
p123

■分裂生成
集団の分化には、無限の可能性があるわけではない。ふたつのカテゴリーにはっきりと分けることが出来る。

a --- 関係の形式が主として対称的symmetricであるケース。別々の半族へ、氏族へ、村々へ、(ヨーロッパにおけるような)国々へ分かれる分化がこれにあたる。

b --- 関係の形式が相互補完的(相補的)complementary である場合。異なった社会階層、階級、カースト、年齢グループの分化がこれにあたる。文化的意味での性分化も、しばしばこのカテゴリーに入る。

・・・
自慢とは自慢に対する反応なのだとすると、このとき、互いが互いを駆り立てるようにして、ますます強い自慢的な行動をとっていくというプロセスが進行しがちである。そうした「分裂生成」が始まると、何らかの歯止めが利かないかぎり、お互いへの敵意が一方的に高まってシステムが瓦解することは、いずれ避けられなくなる。
p125

☆☆☆
■分裂生成の抑制ファクター
1. ・・・関係性を、主だった特徴によってAかBかに分類するのは易しいことだが、対称型の関係にごくわずかな相補的行動を混ぜるだけで、また相補型の関係にごくわずかな対称的行動を混ぜるだけで、著しい緊張緩和関係の安定性が得られるものである。

3. ・・・一方、相補的な分裂生成が起こる時も、交換的な行動は容易に吸収されてしまうようである。 ・・・つまり一方の行動が一方の集団に偏っていく方向へ関係システム全体が動いていってしまう。 そもそも交換的にふるまっていたものが、典型的な相補のパターンに陥り、相補型の分裂生成をきたしていくというのは、関係がたどるひとつの自然な道筋だともいえそうである。
(注)結婚当初は(交代で食事をつくるなど)交換的な行動をとっていた夫婦が、しだいに典型的な相補型の関係に陥っていくケース。

5. ・・・階級間や国家間の政策を推進するものが、集団間に起こっているプロセスとそれに対する自分たち自身の関与を把握した上で、問題の解決に当たることは可能である。ただ現在の文化人類学社会心理学に、政策に助言を与えるだけの信望がない以上、これは現実にはきわめて起こりにくい。

精神の生態学

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